第弐拾弐話「第弐次龍ヶ丘會戰〜我等が母校の明日の爲に〜」
『ようやく来おったか…』
「一つだけ聞いてくれ。今回の件は事情を知らない一個人がやった事で、我々全員の意志ではない」
『個人であれ、全体であれ、我等の眠りが覚まされた事には変わらぬ。俗物的な一時的感情で我等の眠りを覚ますとは言語道断!許す訳には行かぬ!!』
「クッ、やはり説得は無理か…」
團長の説得空しく、戦闘は避けられないようである。
「よし!例の作戦通り戦闘を展開する。柚依は『聽』の能力を、美樹は『讀』の能力を使い、敵の現状位置を把握しておいてくれ!それを私が『傳』の能力を使い、皆に伝える。現状位置を確認次第潤が『力』の能力を、高が『氣』の能力を、四郎が『メxの能力を使い攻撃をしてくれ。麗は『視』の能力で敵の攻撃を見て、神人は『念』の能力能力で敵の攻撃を防いでくれ。残りは援護攻撃に徹してくれ!!」
『諒解!!』
團長の口から作戦内容が言い渡され、各自戦闘態勢に入る。私はとりあえず援護攻撃である。
(敵、0時の方向に3、3時の方向に2、6時の方向に3、9時の方向に4!!)
(囲まれたか…。美樹、敵の心は読めるか…)
(駄目!無心だわ!流石に戦い慣れているわね…)
(武彦!敵の攻撃が四方から向かってくるのが見える!)
(何!?神人!防げるか?)
(やってみます)
我々に向かって来る衝撃破。だが、それは何か見えない物に防がれた。
(よし!3人とも今の隙を狙い攻撃だ!!)
(諒解!!)
その直後、攻撃担当の3人が動き出した。
「シャイニングフィンガー!!」
潤が例の「力」の能力を使い敵に拳で一撃を加えようとする。しかし、敵は実体のない霊体、潤の攻撃は空を切った。
「やはり通じないか…」
「気孔同調拳!!潤、お前の気の波動の流れを敵と同一に変えた。これで攻撃が可能になる筈だ!」
「サンキュー、高」
「風は霊体と同じく眼に見えないもの…。俺の攻撃は問題なく通用する筈だ!眞空烈レ!!」
突如四郎の周りに風が舞い、それが敵のいるであろう方向に炸裂する。
『ほう…そこそこは腕がたつようだな…』
「一体何が起きたんだ…」
既に知る「力」と「聽」の力以外の蝦夷の力に、私の思考は戸惑う。
(私が順を追って説明しよう…)
今度は團長の声が頭に響いて来た。
(今私は「傳」の能力で君に私の考えを伝えている。この能力はテレパシーで対象者に思っている事を伝えたり、対象者が私に思っている事を感じ取る能力だ。これにより戦闘中は口を使わずに円滑に情報の伝達をしている。で、先程の動きだが、まずは美樹の「讀」の能力、これはあらゆる生命体の心を読む能力だ。と言っても、怒りや戸惑いなどの漠然とした感情しか読む事が出来ない。だが、その対象は霊体も例外ではない。今は敵の位置を知るのが目的だったから、それでも充分に役立つと思ったが、残念ながら敵は微々たる感情を表に出さず攻撃を仕掛けてきた。次に麗の「視」の能力、これは言わば超視力で数nmの物まで識別可能な能力だ。どうやら敵の本体は見えないが、繰り出す攻撃は識別が可能のようだ。そして、神人の「念」の能力、これは一種の精神フィールドで、衝撃波などの波動を伴う攻撃であるならば防ぐ事が出来る)
(精神フィールド?エヴァの「A・Tフィールド」みたいなものですか?)
(ああ、我々の間では「念動フィールド」と呼んでいるがな。説明を続けるぞ。高の「氣」の能力、これは一般的に知られた気孔術で、さっきは潤の孔を突き、読み取った敵の気の流れに潤の気の流れを同調させた。最後に四郎の「メvの能力、これは風をある程度意のままに操ることが出来、さっきは真空波を起こした。この能力は大気の状態により、条件が揃えば蜃気楼を巻き起こす事も可能だ)
『大体の力量は見極められた…。そろそろ本気を出させてもらう!!』
(團長!四方からこちらに突進して来ます!!)
(各自、回避しつつ迎撃態勢を取れ!!)
『諒解!!』
團長の命により、各自構える。
「やらせるかっ!」
『フ、その程度か?』
「グッ、押されているのか!?」
神人が先程のように念動フィールドを張るも、劣勢に立たされる。
『主の念では我等の怨念を防ぎ切る事は出来ん!!』
「クッ、俺の母校を思う気持ちはお前達の怨念に負けはしない!!」
『我等の怨念は1200年に渡る長きもの…。主のたかだか2、3年の思いになど取るに足らぬ!!』
「うああ〜!!」
念動フィールドが破れ、神人が負傷し倒れる。
『まずは防御手段を奪った…。次は……』
「次は敵の位置を探っている俺っていう訳か!!」
私には何も感じ取れないが、蝦夷の魂達は柚依に集中攻撃を仕掛けたようだ。集中砲火を受けながらも回避し続ける柚依。だが、神人次第に劣勢に立たされていく…。
「ハァ、ハァ……」
『止めだ!!』
「がはっ!!」
(柚依!!これでは迂闊に攻撃出来ないな…。各自回避に専念しろ…)
索敵、防御手段を失い、各自、回避運動に出る。
『フン、女を戦場に駆り出させるとは、落ちたものよ…』
「うるさいわね!今の世の中は男尊女卑の思想は否定されたわ。女だって力があれば戦場に出るのよ!!」
『確かに男女の立場を同列にする思想は素晴らしきもの…。だが、過酷な戦場を女子が生き延びられるものか!男女に決定的な能力差はない、それは文明社会が生み出した幻想に過ぎぬ…。戦場で生き延びれる能力を持った女性は希有稀也…。貴公は普通の女性よりは能力が高いようだが、戦場で生き延びられる程には達しておらぬ!!』
「きゃああ〜」
「美樹!くそっ、美樹の敵だ!!」
美樹が倒れた事により、四郎が怒りに身を任せた攻撃に出る。
「烈ワユ波漸!!」
だが、四郎の周りには先程のように風が舞わなかった。
「な、何故だ!?ぐわっ!!」
『余程の能力者ではない限り、感情に左右されず風を操る事は出来ぬ。それ以外の者は明鏡止水の心を持って初めて操れるものよ…。貴公程の腕では怒りに身を任せて風を操れぬのは当然の理!』
死闘に死闘を重ね、次々と倒れて行く戦友達…。戦況は敗戦という名の絶望を物語っていた……。
(こうなったら仕方がない…。これより特攻をかける。まずは私と麗が囮になり敵を引き寄せる。その間飛鳥は敵に接触し「思」の能力で敵に接触した瞬間その意思を読み取るんだ。場所が判明したら、最後に高が「氣」の能力を最大限まで使い、潤の能力を限界まで引き出してくれ…。いいな!!)
(諒解!!)
(團長…俺は…?)
(君と舞先輩は攻撃が不発に終わった時の最後の希望だ…)
(諒解…)
「行くぞ!!」
死に物狂いで攻撃を仕掛ける團長と副團。その攻撃は正に特攻というべきものだった…。
『手段がなくなり、特攻か…。その潔さは敬服に値する…が…』
見えない敵の攻撃に倒れ込む、團長と副團。その刃は止まる事を知らずに飛鳥と高に迫り来る。
「潤!読んだぞ!!」
「俺の力の全てを…。後は頼んだぞ…」
「…はぁぁ〜、これで3分は全力で戦えるな…。戦友(とも)達の想い、決して無駄にはしない!!」
任務を終えた直後、敵の攻撃により倒れ込む飛鳥と高。そして、高の力により限界まで能力を引き出した潤は孤軍奮闘敵に戦いを挑む。
「でぇぇぇりゃぁぁぁぁぁ〜〜!!」
『その程度か?それでも主は我等の生活を奪った侵略者達の子孫か?我等を支配した時の勢いはどうした!?』
「クッ…!」
『我等は倭人には敗れたものの、其の心まで服従した所以は無い。更なる卑劣な肌の白き侵略者共に負け、其の心まで服従した主等など我等の敵に非ず!!』
「確かに心まで支配され、米中国の言いなりになっている者もいる。現に戦後民主主義は過去を否定した。だが、俺達は違う!米国にも勝っていた大和魂を失わないように、バンカラ服と共に戦前のより良き思想を継承している!!」
『自然を破壊し、文明の快楽と平和主義に現を抜かしている者共が、自然と共に生き、常に死と隣り合わせだった我等に敵うものか…』
「だが、極度の精神主義を武器としていた日本は、技術と物量を前面に押し出した西欧に負けたじゃないか!自然崇拝では物質崇拝には太刀打ち出来なかった、だから同じ過ちを繰り返さない為に文明の享受を受ける必要があった。だが、東洋の思想が完全に負けた訳ではない。だから俺達は現代文明の享受を受けながら蝦夷の力を継承しているんだ!!」
『文明の享受を受けながらも力を継承する…。そのような中途な精神では我等の積年の恨みに勝る事は無い!!』
「(クッ…力を集中的に使い過ぎた為に体に軋みが出始めたか…)こうなれば刺し違えてでも…」
「潤!?」
「…若僧が…死にに急ぐな…」
「いっ、一成先生…!?」
潤が倒されようとした刹那、突如手に竹刀を持った一成先生が救援に駆けつけた。
「やはり教え子を戦場に駆り出し、自分はそれを見守っているだけというのが我慢できなくなってな…。さあ、剣聖に直に鍛えられた我が太刀、受けてみるがよい!!」
『ほう、我等を打ち倒したあの源氏の血を継ぐ者の弟子か…。少しは出来るようだな…』
私は腹立たしくなってきた。蝦夷の力を持たないにも関わらず戦場に赴いた一成先生に対し、自分は力量が足らずで防戦一方、果てには次々と倒れて行く仲間をただ見ているだけであった。
「うおおお〜!!」
勝てなくてもいい、このまま何もせず引き下がり敵に背を向けるのより、私は敢えて死を選ぶ…。そんな思いで私は攻撃を仕掛けた。
『何処を狙っている?主のような戦知らずが、戦場に出て来るな!!』
やはり戦い慣れしていない私の攻撃は空振りに終わり、敵の反撃が私を襲う。
「…祐一、大丈夫…」
「ま、舞!?」
もはやこれまでかと思った瞬間、舞が私の身代りに敵の攻撃を一手に受ける。
「祐一を護るって約束したから…」
「ま、舞…。くっそおぉぉぉ〜!!」
舞が倒れた事により、私の悲しみと怒りは頂点に達し、その後体の奥底から不思議な力が涌き出て来た。
『この力…もしや…!?』
(な、何だこの感じ…!?体の奥底から涌き出る底知れない力は…)
『油断したな…まさか主が源氏の血を継ぐ者だったとはな…』
(源氏の力…!?)
そう言われた瞬間、私の頭の中をある言葉が遮った。
『祐一、今は無理でも条件が揃えば舞君を超える事は可能だ』
『舞ちゃんよりも強くなれるの!!でも、条件って…』
『血と想いだ!!』
「そうか…これが春菊さんの言っていた…」
春菊さんの言っていた血、それは源氏の血を継ぐ者つまり源氏の血統を、そして想いとは、心の奥底から涌き出る人が人を想う気持ちを指していたのだ。
「祐一…これを使って…」
「ま、舞、無事だったのか…良かった…」
倒れながらも辛うじて意識を保っている舞から、私は舞が愛用している剣を受け取った。
「はや!!」
私は剣を構え、飛翔する。体に流れる血が戦い方を教え、漲る力のお蔭で敵の気配も察知する事が出来た。
「はやぁ〜!!」
四方から降掛かる攻撃を軽々避け、私はひたすら剣を振りかざす。
「何て動きだ…。これが本当に祐一なのか…」
「ああ…。そしてこの力を持っていたからこそ、春菊先生は應援團最強と謳われたのだ…」
「はああああ〜〜!!」
『流石と言うべきだな…だが、我等とてそう簡単には退かぬ!!』
「何故だ!貴方達は何故そこまでして戦う!?」
『簡単な事。全ては我等の正しき存在意義を後世まで伝え忘れさせぬ為…』
「何っ!?」
『歴史というのは勝者によって造られるもの…。皇家を中心とした歴史では我等は朝廷に反抗した者と描かれ、我等が偉大なる盟主阿弖流為は悪路王と鬼呼ばわりであった…』
「しかし、あの戦争に負けた事により、皇家を中心とした史観は瓦解した。今は阿弖流為もこの地方を護った英雄として奉られている。歴史は勝者が造る時代は終わったんだ!そんな時代になっても、まだ戦うというのか!?」
『確かに我等に対する執拗なまでの偏見は無くなった。だが、未だに我等を支配した行為を侵略とは認めておらぬ!我等に比べれば雲泥の差がある程懐柔な占領政策であった朝鮮統治を、大々的に侵略だと言っているにも関わらず…。優れた文化を持つものを統治するのは侵略だが、優れた文化を持たぬものを統治するのは侵略ではないと言いたいのか!!』
「ああ、間違い無く貴方達にした政策は侵略行為だろう。しかし、確たる世界組織が構築されるまでは侵略という行為はある意味正当化される行為だった。人は新たな地を求める時、ある時は侵略に侵略を重ね、多くの血を流した。その繰り返しで世界は次第に広がりを見せ、そしていつしか侵略という行為が悪に値するものと認識されるようになった。もし核が生み出されるまで侵略という行為が無かったなら、世界は更なる悲劇を体験する事になっていただろう。だから、貴方達が流した血は決して無駄ではなかった筈だ!だから、もうこれ以上血を流す行為を繰り返す必要は無いだろ!!」
自分達の正しき存在意義を残す為に戦う者と、自分達の大切な場所を護る為に戦う者との死闘。この不毛な戦いに果たして終わりは来るのだろうか…?
「はぁ、はぁ…」
『素質だけは八幡太郎、判官殿に勝るとも劣らぬな…。然れど体が力について行かぬ様だな…。源氏の血を継ぐ者とはいえ、所詮は現代文明に脚を浸かった者に過ぎぬか…』
「く、くそ…」
『だが、血を継ぐ者を生かしておくわけには行かぬ…。その命もらい受ける!!』
迫り来る敵の刃、もはやこれまでかと思った刹那、私の前にある影が現れた…。
「はぁ、はぁ…、祐一を…いぢめたら…許さないんだから…」
「ま、真琴!?どうしてここに…」
私の前に現れた真琴…。高熱で寝込んでいた筈の真琴がどうしてここに…!?そして真琴が現れた瞬間、敵の攻撃が見えない壁見たいなのに阻まれた気がする。もしかしてこれは…。
「祐一はお母さんを失って悲しんでいた真琴を拾ってくれた…、大切な人なんだから…。だから…、だから…いぢめたらゆるさないよぅ…」
その瞬間、周囲に真空の渦が巻き上がる…。間違いない、さっきのは「念」、そして今のは「メvの蝦夷の力…。でも真琴がどうして…?
『何と…、「メvの力を感情に左右されずに自在に操れるのか…。それだけではなく蝦夷の力を多数使え、しかも應援團を遥かに凌駕する威力…。まさか…、盟主阿弖流為の子孫……』
「やっぱりか…」
「やっぱり…!?どういう事だ、潤?」
「『嘗て阿弖流為の子、朝廷から逃るる為、持って自ら狐となり山へ隠れ入る』…。この地方に伝わる伝承の1つだ…。祐一の話を聞いてもしやと思ってたんだが…」
満身創痍で地面に平伏している潤の口から語られる衝撃の一言…。俄かには信じ難いが、狐が人間に変身するという話よりは信憑性が高い。そして、今思えば、真琴が私を抱き締めたあの強力な締め付けは、「力」の蝦夷の力を本能的に使ったものだったのだろう…。
「!?ま、真琴!!」
力を使い果たしたのか?倒れ込む真琴を私は藁をも掴む思いで必死に受け止めた…。
「潤、お前の話だと真琴は人間なんだよな?狐じゃないのに何でこんな目に……」
「言わなかったか?たとえ人間であったとしても、非文明人には俺達の生活リズムに耐えられないと…。彼女に至るまでの阿弖流為の子孫等は、1200年の間文明とは無縁な山の中で生活していたんだ…。いずれにせよ、こうなる定めだったんだ……」
「そんな…」
「ゆ、ゆういち……」
「真琴?何故こんな所に来たんだ…」
僅かに意識を取り戻した真琴に、私は必死に話し掛ける。
「真琴の部屋に来た祐一の気配が…普通じゃなかったから…。だから、出て行った車の後を追いかけて……」
「自分の体に無理を言ってまで俺の事を……」
「真琴…、祐一に何のお返しもしてあげられなかったから……」
「馬鹿野郎…。俺は…私は真琴の元気な姿が見られる、ただそれだけで良かったんだ…。それなのに……」
「あう…ホントにごめんね……。…ねえ、祐一?真琴…、少しは祐一の助けになった……?」
「ああ…。だからもう喋るな…!!」
「良かった…。役に立てて…。これでお父さんに…育ててもらった恩返しをする事ができた……」
「真琴…、私はまだ17だぞ…?そんな年で父親呼ばわりされるのはごめんだ…。せめて、兄さんって呼んでくれ……」
「うん……。今まで…色々と楽しかったよ……、ゆう…い…ち……お…にい…さま……」
「お…おい、嘘だろ…?真琴、返事をしろよ!!真琴…、まことぉ……」
満面の笑みを浮かべ、ゆっくりと目を閉じる真琴…。私は真琴の名を必死に叫んだ…。だけど…、真琴の目は閉じたままで、再び開く事はなかった……。
『…許さぬ…。安倍氏を滅ぼし、奥州藤原氏を滅ぼしただけでは空き足らず、今度は我等が希望まで奪い去るのか、主等源氏の者は……!!』
「ああ、真琴がこうなったのは全て私の責任だ…。殺すなら殺すがいい!だが、もうこれ以上の犠牲は充分だ!!俺の命を奪ったならもうこんな戦いは止めてくれ!!」
『良かろう…。その覚悟に免じ、一思いに黄泉の国へ旅立たせてくれようぞ……』
「祐一!早まるな!!」
(名雪、どうやら帰れそうには無い…。…佐祐理さん、申し訳ありません…。貴方との約束守れそうにありません…。だけど、私の命で全てが終わるのです…。だから、こんな私をお許し下さい……)
…第弐拾弐話完
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